ダンパ。ぼくの犬。      

犬の名前は「ダンパ」。

体は真っ白やねんけど、両目の周りだけ黒いブチが入って、まるでパンダみたいな顔や。
僕の性格は一直線やから

「名前はパンダにしよ」

と言うたけど、兄ちゃんが

「アホか。散歩とかしてて『パンダーおいでおいでー』とか、俺恥ずかしくてよう言わんわ」
「でもどっから見たってこの顔はパンダ顔やで」
「そやな。そしたら反対から呼んで「ダンパ」ってどうや?ダンパー!!
 ほらこいつシッポ振ってるわ。気に入ってんぞ!絶対」
「ダンパかー…かっこいいなあ。ダンパ!あははは。ダンパ、こっちこっち」

おじいちゃんが通ってる将棋倶楽部の友達に吉田さんていう人がおって、その人の
家の前に子犬が三匹捨てられとった。二匹はもらわれていってんけど、後一匹だけ
どうしても飼い主が見つからなくて、おじいちゃんが「どや。可愛いやろ」ってもろて
帰ってきた。お父ちゃんは反対したけど、僕らよりもおじいちゃんよりも、お母ちゃんが
一番に喜んだからお父ちゃんは「こら、あかんわ」ってあきらめたみたいや。

ダンパはご飯をぎょうさん食べて、ぎょうさん走って、家族みんなの中心やった。
僕は弟が欲しかったから、ダンパと僕は兄弟みたいにすぐ仲良くなった。お兄ちゃんと
僕と一緒に「ダンパ」って呼んだら絶対に僕の所へ走ってくるのが何よりの証拠や。

二階で宿題してたらバイクの止まる音がした。お母ちゃんが買い物から帰ってきた。

「ちょっと、上にダンちゃんおるん?」

下からお母ちゃんが叫んだ。

「さっき台所で寝てたで。上には来てへん」
「玄関のドア開いてるやん。あの子出ていったんちゃうの?」
「うそっ!!」

僕は階段を下りて、さっきダンパが寝ていた台所に飛び込んだ。
ダンパが寝ていたバスタオルの上にダンパは居なかった。

「誰か来たん?」
「あっ、宅急便や。この荷物。はんこ押して貰って…ついさっきやで」
「ちゃんとドアが閉まってなかったんやわ」
「お母ちゃん!」
「さがしに行こ。そんなに遠くは行かへんわ。30分経ったら一回家に戻ってくるんよ
 車には気を付けて」
「わかった」

心臓が目覚まし時計みたいにジリジリ鳴ってる。ダンパ。
車にはねられてたらどうしよう。

「ダンパー」

いつも散歩で通る道を僕は何回も何回も自転車で走った。

ダンパが居なくなって三日目に雨が降った。

「ダンちゃん、上手に雨宿りしてるかな」
「お腹空いてるんちゃうかな。ダンパ何で帰ってけえへんねん」
「誰が優しい人が家に入れてくれたらいいんやけど」
「お金出して飼ったって捨てる人がおるぐらいやんか、お母ちゃん。そんなええ人おらへんで」
「そうかなあ」
「おらへんよ」

ダンパは今日も帰ってこなかった。

日曜日サッカーの試合で隣の町の小学校に行った。試合はボロボロやったけど
僕の頭の中はダンパの事だけでいっぱいやったから別にショックはなかった。

試合の帰り道、コーチがコンビニに寄ってみんなにジュースをおごってくれた。
僕はコンビニの駐車場の壁にもたれてコーラを飲んでいた。

「何回言うたら分かるんじゃ。ビール買ってこい。お前ら聞こえへんのか。
 さっさと行かんかい。どつかれたいんか」

大きな声だった。

驚いて振り返ると小さな家の前で女の子がうずくまって泣いていた。
胸に子犬を抱いていた。

ダンパだった。

真っ白い体、パンダの様に目の周りだけ黒い顔。そう、右の目の黒が少しだけ大きいんだ。
ダンパに間違いない。

家の中で何かが割れる音がした。
と同時にドアを開けてぼくと同じ年ぐらいの男の子が中から出てきた。

「お兄ちゃん」
「大丈夫や。競馬で負けて暴れてるだけや。行こ。そこまでやけど行けるか」
「うん。ほらパンダわんこちゃんおとなしいよ」

ダンパは女の子の涙で濡れたほっぺたをぺろぺろとなめていた。

「泣いてたら犬に笑われるで。抱っこしていけるか」
「うん。おりこうやで。パンダわんこちゃん。ねっ」

二人はコンビニの前の横断歩道を渡って、販売機で缶ビールを3本買うと
また横断歩道を渡って戻ってきた。僕の横を男の子と女の子とダンパが通りすぎてゆく。

(ダンパ)

その時ダンパは確かに僕の顔を見た。ダンパは僕を分かってる…。分かってるんや。

ダンパとお風呂に入って泡だらけにしてお父ちゃんに怒られた事。
お兄ちゃんの宿題のプリントにおしっこひっかけた事。
お母ちゃんに噛みついてお尻をぺんぺん叩かれた事。
ダンパとお兄ちゃんと僕と三人で布団にもぐって恐い映画を観た事。

僕の頭の中でダンパの思い出が花火みたいに広がった。

女の子が立ち止まった。

「お家入りたくない」
「ほなお父ちゃんにビールだけ渡してくるわ。前で座っとき」
「すぐ来てよ。お兄ちゃん」
「分かってる分かってる。よそ行ったらあかんで」
「行かへんよ。ここにおるよ」

男の子が家の中に入ると、女の子はまたシクシクと泣きだした。

僕は女の子に何か伝えたかった。だけど言葉のかけらだけがぐるぐる飛び回って
最後までそれが一つになる事はなかった。

「パンダわんこちゃん。ずっと一緒いようね。パンダわんこちゃん。
 わたしもう泣かないからね。わたしパンダわんこちゃんのお母さんだもん」

頭を撫でられてダンパはいつの間にか女の子の腕の中で眠っていた。

「おーい。揃ったか。ほらお前、そこゴミ拾っとけ。帰るぞー」

コーチの声で僕は夢から覚めた様やった。

「ただいま」

僕の声を聞いてお母ちゃんが台所から出てきた。

「お帰り。どやった?試合」
「ううん」
「そっか…そうそう、今日もねダンパさがしたけど見つからへんかったわ」
「ほんまぁ…」
「どこ行ったんやろなあ。貼り紙までしたけど見つからへんもんやね」

「でも…でもダンパ可愛いから、誰かが大事に飼ってくれてると思うわ」
「そやね。そうやったらええね」
「だから。もう僕は今日でダンパさがすんやめるわ」
「うん……分かった。またきっとひょっこり帰ってくるかも知れんし」
「うん」
「じゃお兄ちゃんも呼んできて。ちょっと早いけど晩ご飯にしよ。お父さん送別会で
 いつ帰ってくるやら分からへんし」
「うん。呼んでくるわ」

靴のひもを解こうとしゃがんだら、横に置いてあった兄ちゃんの靴に白い毛の束がついてた。
ダンパが兄ちゃんの足にじゃれついたときに抜けたんや。

「ダンパ…」

僕はダンパの身体を思い出しながら、そのダンパの白い毛を撫でた。

「ダンパ…」

ドアを開けて指先についたダンパの毛を

ふーっ

と吹いたら、飛んでいってそれはすぐに消えてしもた。

目の前の赤い赤い夕焼け。

ダンパ。お前と一緒にもう一回だけ見たかったな。

                                                                     by ちろる



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2010年 4月 07日 | Friends and People and Pet is Famlly



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